しましまな日々

12ステップを通じた問題からの回復について

「人は変えられない」という考え方を捨てる時

「人は変えられない」というのは方便

「人は変えられない、変えられるのは自分だけ」と言う言葉があります。これはある種の方便で、実際は、人は変えられます

そうじゃなかったら教育や対人援助はこの世から姿を消しているでしょう。スポンサーシップも同様です。悪い例だと犯罪や戦争があるでしょう。これらも、人を大きく変えてしまうものです。

 

さて、なぜこの言葉が方便なのでしょうか。それは、人を変えようとすることはエネルギーと時間が必要だからです。

AAにたどり着いた人はまずはアルコホリズムという「自分の問題」への取り組みを最優先しないと、自分の回復を得る前に死んでしまいますので、最初は自分の変化に対して集中しなさい、という意味です。

それは、コトバンクに記載されている方便の意味の③ということですね。一時的には、この考え方も役に立ちます。しかし、方便はあるときは役に立つ考え方であっても、後には役に立たなくなるので方便というのです。つまり、「人は変えられない」という考え方を、ステップワークが進む中で捨てる時がやってきます。

それは特にステップ8・9です。

ステップ8のリストには

ステップ8の傷つけた人のリストを見てみてください。おそらくその中には、私たちの行動が大小はあれ「変えてしまった」人がいるはずです。人は相互に影響を及ぼし合って生きているので、自覚的にであれ、非自覚的にであれ、人は他者の人生や感情等を変えていくのです。親子関係や夫婦関係なんかはわかりやすいですよね。

特に12ステップに取り組む私たちは、自己中心的な生き方をしてきたはずです。その過程で、他者の人生に影響を、多くは悪影響を及ぼしているのが普通です。つまり僕たちは「人を変えてしまっている」のです。

そこに直面するのもステップ8・9の重要な過程ですが、そこで「人は変えられないから」という考えでその事実から目を背けてしまうと、ステップ8・9は効果を失ってしまうのです。

 

人は様々な影響で変化し続けているものです。私たちは日々、他者に影響を及ぼしていますし、他者から影響を受けています。

こういった事実を否定してしまっては、ステップ8・9がうまく働かなくなってしまいます。また、棚卸しも不十分になってしまいます。性格上の欠点というものは、人に悪影響を与えるものなのですから。

直面すべきものに直面せず、ただ形だけの埋め合わせをしても、必要な変化は訪れません。苦しいままです。僕にもそういったことがありました。

 

そういった事実に直面した上で、さらにステップワークを進めていくならば、自分は悪影響だけでなく良い影響も与えていたことに気づくこともできます。それは神の恵みであったこともわかってきます。

いつまでもそれではいけない

「人は変えられない」というのは特に回復初期には効果がある考え方です。ですが、いつまでもその考え方にしがみついているとどうなるでしょうか。そうすると、意識せざるとしまいと、「自分のことだけに集中しようとする古い生き方」を強化してしまうことになりがちです。

具体的には、自分が他の人や集団に及ぼす影響を過小評価して、「自分に人は変えられないから」と取るべき自分の責任を拒否する態度に結びつくことがあります。

困った時になったら「人は変えられないから」で責任や考えることを拒否することもあります。

「人は変えられないのに、あの人は人を変えようとしてる」と他者の行動や失敗をあげつらうようになることもあります。

また、12ステップの根本原理の一つは「自分が助かりたかったら他の人の手助けをせよ」ですが、いつまでも自分の回復ばかりにとらわれて、今苦しんでいる人の手助けに目が向かない困ったちゃんなメンバーになったりします。

自分のことをほったらかしで人のことばっかり、というのも困ったものなのですが、いつまでも自分のことだけで精一杯というのも困ったちゃんです。僕たちはほんとにバランスを欠いているもんです。

 

「私の責任(I am responsible...)」を考え、引き受けるには、私たちは良くも悪くも人を変えることがあるし、そうやって生きていることを受け入れる必要がありますね。

蛇足

ちなみに蛇足ですが、スポンサーを引き受けることも「人を変えようとすること」です。ここには支援と被支援の関係性があります。それは否定できませんし、すべきでもないと思います。スポンサーもスポンシーも対等なただのアル中、ということはありません。

僕たちは自分のためにスポンサーを引き受けるのですが、しかしそこに支援・援助の側面があることを忘れると、スポンシーに無茶苦茶やった挙句に「自分に人は変えられないから」なんて言って突き放す暴力的スポンサーシップになっちゃったりね。

まぁ、なっちゃうときもあるんですが、自分の立ち位置に気づいていないのはよろしくないです。

人の中で生きていくこと

では、共同体のなかではどうでしょうか。

AAという共同体は聖人の集まりではありませんし、あり得ません。そこには様々な欠点を持ったアルコホーリクたちが集まって、さまざまに欠点を爆発させてあーだこーだやっています。そこで、私たちは相互に影響を与え合っています。

僕はそういった他者の欠点に影響を受けるのが嫌で、「もうちょっとマトモになれよ、人じゃなく自分を変えろよ!」と苛立っていたことがありましたが、それは利己的で役に立たない考え方であることがわかってきました。

だって、自分がAAの中で自分の欠点を出して気づかせてもらってるからこそ、その欠点にステップを使って成長していけるのです。そのような相互支援の中でこそステップワークが進んでいきますし、自他の欠点や失敗を恐れて孤立したり、萎縮していては、プログラムが使えないことがわかってきたからです。

 

AAの中で、自分の欠点が他者に影響を及ぼすからこそ、自分の欠点を知りステップが使えます。また他者の欠点が自分に影響を及ぼすからこそ、ステップが使えます。自他の失敗は成功と同じく、もしくはそれ以上に大切です。そして、そうやってAAで成長していく僕たちは、みんながお互い様であって、支え合ってます。

つまりは、自分が幸福に長生きするためには、「もう一人のアルコホーリク(たち)」が必要不可欠なのだってことです。ビッグブックに書いてある通りですね。

 

「人は変えられない」という考え方から、「人は良くも悪くも相互に影響を与え合っている」という考え方に変化すると、以前よりAAミーティングへ行く機会が増えました。また、以前よりもずっとずっとリラックスした形で、AA(メンバーたち)とプログラムが好きになってきました。

AAは相互支援グループだってことに、最近になって気づきましたよ。だって、僕たちは一人で生きているわけではないし、一人で生きられるわけはないのだから。

神の恵みによって。

 

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